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AXE ZANMAI
"子供たちの明日"
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ゆうべ、じゃなくて今朝はコルテージョで踊り狂い、その後、夜明けの海があまりに
美しかったのをボーッと眺めていたために、結局二時間ぐらいしか眠っていない。全身
の筋肉痛と足の裏の血マメは悪化するばかりで、歩いているだけでゲロを吐きそうな気
分だ。
しかし、休んじゃいられない。今日は、午前10時からカンポ・グランジ発のSODOMO
のパレードがあるのだ。NHKも注目しているマルシオ君たちの晴れ姿を見逃すわけには
いかない。
10時過ぎにバスで会場にたどり着いたが、そこはひっそりと静まりかえっていた。
何人かの人に、SODOMOはどこにいるのかと尋ねてみたが、要領を得ない。なにしろ、
名前のとおり恐ろしく広い公園なのだ。おまけに普段と違ってフェンスが張り巡らされて
いて、見通しがきかない。ふと思いついて、DIDAはどこかと尋ねなおすと、
「DIDAなら、あのフェンスの向こうにいるよ」
と教えてくれた。同じネギーニョの率いるバンドだが、知名度が違うのだ。
フェンスの向こうには白く塗られたトリオが停まっていた。車体に大きく「minha
escola e meu futoro(私の学校と私の未来)」という文字と教科書の絵が大きく描かれて
いる。きっとこの車だ。
トリオの上にいたDIDAのお姐さんたちが僕に気づいて手を振ってくれる。
「いつごろ出発するの?」
「さあね。たぶん、昼過ぎよ。」
ということは、あと1時間以上待たなくてはならない。既に日射しがきつく、足元から
立ちのぼる熱気に頭がくらくらする。とりあえず、木陰を探して待機しよう。
NHKのカメラ担当の方が通りかかり、僕に事情を教えてくれた。SODOMOの出番は
午前の部の二番目なのだが、一番目のバンドがまだ準備中なのだという。話している間に、
可愛い衣装を身につけた子供たちが少しずつ集まってきた。
10分、20分と何の変化もないまま時間だけがすぎていく。カルナヴァルだというのに、
あたりは妙に静かだ。現場に到着したときには笑顔を見せていた子供たちも、炎天下で
さんざん待たされて、さすがにうんざりしている。こんなふうにテンションを下げたままで
パレードに臨むのかと思うと、僕までがイライラしてきた。
NHKのスタッフに「今日の天気、どうなりますか」と聞かれた通訳氏が「昼過ぎに
雨になる」と断言した。早く出発しないと、中止になるかもしれない。
本部と交渉していたネギーニョが戻ってきたようだ。スタッフにあれこれ指示を出して
いる。NHK取材班がすぐさま彼を取り囲み、カメラを向ける。混乱した現場でぴったり
貼り付かれて、さすがにちょっとうんざりしているようだった。
そのネギーニョが、こっちを見てニコリと笑い、近づいてきた。木陰で待ちくたびれて
いる子供たちに何かを伝えに来たのかと思ったら、僕の姿を見つけてわざわざ握手しに来て
くれたのだった。
ちょっと恐縮したけれど、すごく嬉しかった。
どうやら一番目のバンドが出発を取り止め、SODOMOが繰り上げ出動するようだ。
どこから集まってくるのか、みるみるうちに人数が膨れ上がる。カピタンの衣装をつけた
大人やインヂオの民家らしい小屋を載せた山車など、ブラジル500年の歴史を意匠にした
組み立てであることが見てとれる。子供たちも、アフリカ系のデザインの衣装やインジオ
ぽいコスチュームのチームに別れてグループを作っていた。ネルソン・マンデラやマルコム
X、キング牧師の写真も見える。パレードそれ自体が一つの教育の場となっているようだ。
出発の準備が整った時点で12時はまわっていたと思う。蒸し暑さの中で、スタッフの
動きも子供たちの表情もやけに緩慢だった。炎天下、あれだけ待たされたんじゃ、無理も
ない。
「盛り上げなくちゃ」と覚悟を決めて、DIDAの演奏が始まるとすぐに、それに合わ
せてトリオのすぐ横で踊った。トリオの上でDIDAのお姐さんたちが笑っている。彼女
たちは僕が滅茶苦茶なステップで踊るを見るのがお気に入りなようで、「もっとやれ」と
煽ってくる。
子供たちはまだテンションが低いまま、くたびれた顔でぞろぞろと歩いているが、何人か
の観客が僕のそばにやってきて、一緒に踊ってくれた。しばらく進むと、メイン会場の本部
席となっているカマロッチがあり、ここには一般客は入れない。
ゲートが開けられた。SODOMOのみんながトリオと一緒に中に入っていくのを見送り、
遠回りをして出口ゲートの外で待つ。中では、リオでやってるみたいに審査が行なわれて
いるのかもしれない。
突然、大粒の雨が落ちてきた。ゲートの周りにいた観衆が、雨宿り出来る場所を求めて
散り散りになる。そして、軒下から恨めしそうに空を見上げる。簡単にはやみそうにない
空模様だ。やっと出発したかと思ったら、土砂降りとは。。。天は、どうしてこうも無情
なのだ!
僕もいったん軒下に避難したが、ゲートが開いてSODOMOが路上に繰り出すのを見て
一緒に路上に飛び出した。
路上に観客の姿はほとんどない。だが、子供たちは雨なんかに負けてはいなかった。逆に、
この雨で生き返ったかのように、輝きを放ち始めていた。トリオの上のステージで、7才ぐ
らいの少年がマイクを握り、堂々と歌っている。
「僕たちの学校、僕たちの明日...」
繰り返されるこのフレーズに、この国の子供たちの多くが学校に行きたくても行けない事情
を抱えていることを思い起こす。日本では登校拒否なんてのが表面化しているが、こっちで
は状況が全く違うのだ。
しばらくすると雨がやんで、今度は強烈な太陽が照りつける。汗がどっと流れ出てくる。
意識が朦朧としてくる。自分の体調がつかめない。3秒後には路上に突っ伏してゲロを吐く
かもしれないし、このまま二時間ぐらいぶっとおしで踊り続けることができるかもしれない。
意識とは別に、体だけがリズムに反応している。
それにしても、炎天下の行進は、夜とは違ったキツさだ。とにかく、足が痙攣して動けなく
なるまで踊りつづけよう。
子供たちの笑顔が眩しい。見知らぬ東洋人がロープの外で応援しているのを見つけて手を
振ってくれる。喜びと解放感が溢れ、歓喜のウェイヴを発散している。雨が上がったので、
沿道のギャラリーも増えた。ビルの窓から、笑顔で応援している大人たちもたくさんいる。
このパレードに参加した子供たちは、自分たちが街の主人公になった日のことをきっと忘れ
ないだろう。
奇妙な巨漢と出会った。彼は上半身裸の黒い肌に白い幾何学模様をペインティングして
いて、なぜか鼻だけ真っ赤に塗りつぶしている。カシャーサをラッパ飲みして、瓶をその
へんに放り投げると血走った眼で僕を睨みつけ、近づいてきた。嫌な感じがした。
男は両腕を上げてファイティングポーズを見せた。太鼓腹で動きは鈍そうだが、あの太い
腕で殴られたらひとたまりもないだろう。体重は、僕の三倍ぐらいありそうだ。血走った目
で、戦意をあらわにして僕を睨みつけている。
いったい何の恨みがあるっていうんだ、このヨッパライめ。恐怖とアドレナリンがふつ
ふつとこみあげてくる。だけど、こっちだって頭に血が昇っている。
なめられて、たまるか。
勝ち目はないが、逃げ出すのも嫌だった。男はまっすぐ僕に向かって近づいてくる。僕は
何の考えもないまま、両手を広げて「勘弁しろよ」と日本語で話しかけた。
男は僕の1メートル手前で立ち止まり、急に表情をやわらげた。どうやら害意はないよう
だが、眼はすわったままだ。かなり酔っているらしい。何を考えているのか、さっぱり読め
ない。
突然、右手を差し出して握手を求めてきた。それに応じると、恭しく頭を下げて、僕の
右手の甲にブチュッとキスをした。
何なんだ、こいつ。
キモチ悪さを堪えてにっこり笑い、「チャオ」とだけ言ってその場を離れた。男の唇の
感触がなまなましかった。あんな挨拶をされたのは初めてだ。ブラジルの習慣というわけ
ではないだろう。
後を追ってこないかどうか不安に思いつつも振り返らず、トリオの反対側にまわって
やりすごそうと思った。
そのとき、突然ある考えが浮かんだ。
カルナヴァル。人々の歌や踊りはオリシャに捧げられる。悪戯好きのオリシャたちは、
異形の群衆に紛れて地上に降り立ち、ともに喜びを分かち合う。だとすると、あの目つき
の異様な大男は、オリシャの化身ではないのか。あるいは、オリシャが彼に憑移して、
僕に何らかメッセージを送ろうとしていたのではないだろうか。
だとすれば、あれはきっとエシュの仕業に違いない。
路神エシュ。またはエレグア。ブードゥー教の儀式の際、最初に鶏を捧げられるオリシャだ。
以前、キューバのあるバンドが「エレグアに捧げる雛鶏」という曲を演奏するために、観客の
一人をステージに上げて、清めの儀式をしてみせたことがある。
五百人ぐらいいた観客の中から選ばれたのは、僕だった。それが偶然だったのか、どうか。
衆目の中で行なわれた簡略な儀式だったにもかかわらず、僕は訪れた「ちから」の強烈さに
押し流されて、あっけなく失神してしまったのだった。
もう一度会いたいと思っていた。カルナヴァル喧噪の中でなら、再会しても不思議ではない。
エシュのシンボル・カラーは黒と赤。あの黒人の大男は、赤い絵の具を塗っていた。しかも、
今日は月曜日!エシュの現れる日だ。
今振り返ると、荒唐無稽な連想だが、街ぜんたいにhollyな空気が漲っていたあの日、僕は
そう確信して、立ちすくんだ。僕は千載一遇のチャンスを逃してしまったのだ。
せっかく姿を現してくれたのに、なんてこった。それにしても、エシュは僕に何を伝える
つもりだったのだろう。
「もう少し、とっつきやすい姿で現れてくれよな。」
声に出して、そう呟いた。
一度立ち止まってしまったので、もう踊る元気は残っていない。座って休もう。
商店の入り口の扉が開いていて、そこに10才ぐらいの少年が腰かけているのが見えた。隣に
もう一人座れるぐらいのスペースが空いていた。少年がにっこり笑って「どうぞ」という仕種
をした。少年は、上半身は裸で下は半ズボンに裸足だった。きっとホームレスなのだろう。
裸足の子供を見ると、つい避けてしまう。小銭をねだられることが多いからだ。が、立って
いるのもつらいほど疲労困憊していた僕は、誘いに応じて彼の隣に腰かけた。
少年は、僕に向かって右手を差し出した。小銭ではなく、握手を求めているようだった。
妙にきれいな顔をした子供だな、と思いつつ握手に応じると、さっきの巨漢と同じような仕種
で僕の右手に唇をつけた。
この少年は、エシュだ! 姿を変えて、また現れたのだ。
意識が遠のいていく。僕は一体どうすれば良いんだ?
すべての音が鳴りやみ、世界を沈黙が覆った。
「ジャポネーズ! ヘイ、ジャポネーズ!」
誰かが僕を呼んでいる。顔を上げると、パレードの指揮をしている黒人男性が大声で僕に
こう言った。
「ネギーニョがあんたを呼んでいるぞ。ほら。」
指さす方に目をやると、トリオの上でネギーニョが手を振っている。そして、ロープの中に
入って踊れ、という仕種を見せた。
「アバダーを着ていないけど、かまわないのか?」
身ぶりでそう答えると、彼はわかったと頷いて、親指を立てた。
一人の若者がトリオから飛び出してきた。手に、小さな包みを持っている。
「これをあんたに渡してくれって、ネギーニョが。」
もらった包みを開いてみると、SODOMOのスタッフ用Tシャツが入っていた。
僕はそれを受け取るとすぐさま身につけて駆け出した。子供たちの歓喜の輪の中に入って、
滅茶苦茶に体を動かした。子供たちはそれを見て歓声を上げ、一緒になって飛び跳ねてくれた。
太陽が僕たちを照らしていた。不思議なことに、いくら踊っても疲れなかった。
裸足の少年のことを思い出したのは、パレードの最終地点、カストロ・アルビス広場に到着
した後だった。アスファルトの上に大の字に寝っ転がって呼吸を整えながら、たぶんエシュは
僕に祝福を与えてくれたのだろうと勝手に解釈した。
カルナヴァルは単なる乱痴気騒ぎではない。聖なる空間を現出し、聖なるものと交歓する
ための荘厳なる儀式でもあるのだ。
2000年3月6日(seg.)
posted by axe junky at
2:54 AM
on Mar 6, 2004
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